見積書をエクセルで作るところから会社を始めた、という方は多いと思います。最初は数枚のテンプレートで十分でした。案件が増え、単価が変わり、担当者が増えるうちに、気づけばそのエクセルが会社の一番大事な仕事道具になっている。そういう会社は少なくないはずです。
エクセルが悪いわけではありません。ただ、案件数が増えたタイミングで、静かに損をし始めているケースが多いのも事実です。今日は、その「静かな損」を3つに分けてお話しします。

1. 作れる人が1人しかいない(属人化)
一番多いのがこれです。見積書のエクセルには、たいてい複雑な数式や、その人にしかわからない入力の順番があります。「材料費を先に入れて、次に掛け率を入れて、それから人工(にんく、職人が働く日数のことです)を足す」といったルールが、ファイルの中にもマニュアルにも書かれていない。作った本人の頭の中にしかないのです。
そうなると、その人が休むと見積が止まります。辞めてしまうと、次の人がゼロから作り方を覚え直すことになります。中小企業では、この「作れる人」が社長本人か、事務の方1人であることがほとんどです。会社の売上に直結する見積書が、たった1人の頭の中に依存している状態は、思っている以上にリスクが高い状態です。
2. コピーしているうちに数式が壊れる
エクセルの見積書でよくある事故が、数式の崩れです。似た案件の見積書をコピーして作り直しているうちに、セルがずれて計算式が違う場所を参照してしまう。行を1つ挿入したら、下の合計欄が正しい範囲を足さなくなった。こうしたミスは、パッと見ただけでは気づきません。
数字自体は表示されているので、「なんとなく合っていそう」に見えてしまうのが怖いところです。実際には、材料費が二重に計算されていたり、逆に一部が抜け落ちていたりします。これに気づくのが、お客様に見積書を出した後だったら――取り返しがつきません。安く出しすぎれば利益を削り、高く出しすぎれば失注します。
3. 見積から請求書への転記でミスが起きる
見積書ができた後、注文が決まったら請求書を作ります。多くの会社では、これを見積書のエクセルとは「別のファイル」や「別のフォーマット」で、もう一度手で入力し直しています。品名、数量、単価、金額……同じ数字を、もう一度、人の手で打ち直す。
人が同じ作業を2回やれば、間違いが起きる確率はその分だけ上がります。金額の桁を間違える、品目を書き漏らす、消費税の計算がずれる。どれも、実際に中小企業の経理現場でよく起きているミスとして知られています。請求書のミスは、お客様との信頼にも関わる話です。
「そのうち直そう」で先延ばしにされがちな理由
こうした問題は、実は多くの経営者が薄々気づいています。それでも後回しにされやすいのは、日々の見積もりは「今のやり方」でとりあえず回ってしまっているからです。数式が壊れても、なんとなく手で直せば案件は前に進みます。転記ミスも、大きな金額でなければ気づかれずに済んでしまうこともあります。
問題は、これが「たまたま今回は大丈夫だった」の積み重ねだということです。担当者が体調を崩したとき、繁忙期で案件が重なったとき、いつもより急いで見積もりを出さなければならないとき――そういうタイミングで、属人化や数式の崩れが一気に表面化します。平常時に問題ないから大丈夫、とは言い切れないのが、この手の仕組みの怖さです。
一般的にどれくらいの時間がかかっているか
業種や案件の複雑さによって差はありますが、見積もりの作成と請求書への転記にかかる時間は、1件あたり数十分から、複雑な案件では半日近くになることもあると言われています。月に何十件も見積もりを出す会社であれば、これだけで担当者の稼働時間のかなりの部分を占めることになります。この時間は、案件を獲得するための営業活動や、既存のお客様への対応には使えていない時間です。目に見えにくいコストですが、積み重なると小さくありません。
では、どうすればいいのか
こうした問題を解決するために、大きな会計ソフト(マネーフォワードやfreeeのようなサービスです)を導入する会社もあります。ただ、これらのソフトは「決まったフォーマット」に会社の見積のやり方を合わせる必要があり、単価表や掛け率、材料の積み上げ方が独特な業種(内装・建設・製造など)では、結局「見積だけはエクセルに戻ってしまう」という声もよく聞きます。この話は、また別の記事で詳しくお伝えします。
本来大事なのは、ソフトに会社を合わせることではなく、会社が今やっている見積の出し方に、システムのほうを合わせることだと私たちは考えています。単価表も、掛け率も、材料の積み上げ方も、今のやり方をそのまま活かしながら、見積書から請求書までを自動でつなげる。そうすれば、属人化も、数式の崩れも、転記ミスも、根っこから減らすことができます。
なお、請求書の書き方には法律で決まったルール(インボイス制度など)があり、細部は改正されることもあります。制度の詳しい適用については、必ず顧問の税理士の先生にご確認ください。私たちは請求書の記載要件を満たす設計はしますが、税務上の最終判断はいたしません。
「うちの見積、そういえば1人しか作れない」「コピーして使い回している」と思い当たる方は、一度、今の見積の作り方を見せていただくところから始められます。無理にシステムに変えることをお勧めするものではなく、まずは今のやり方のどこに時間がかかっているかを、無料でお聞きする場を用意しています。お気軽にご相談ください。